脳出血について
脳出血とは
脳出血とは、脳内にある細い動脈が、何らかの原因で破れることで脳内出血する病気です。脳内に出血した血液は、やがて血腫となり、さらに時間が進むと脳にむくみが生じます。この血腫とむくみがさらに脳を圧迫することで、吐き気や意識障害など様々な症状が出現するとともに、脳へのダメージが大きくなります。なお、出血は大きく5つに分類されます。
麻痺や感覚低下を来す①【被殻出血】、②【視床出血】。意識障害が主な症状となる③【脳幹(橋)出血】。めまい症状やふらつき症状を発症する④【小脳出血】。脳動静脈奇形や脳アミロイドアンギオパチー等、高血圧以外の原因で発症することも多く、出血部位によって様々な症状を呈する⑤【皮質下出血】に分類されます。



脳出血の原因
脳出血の主な原因は「高血圧」です。心臓が収縮し送り出された血液は動脈を通って全身に運ばれます。その際、血管の内壁には圧力がかかります。これを「血圧」と言い、この血圧が慢性的に高い状態が高血圧です。
1970年頃までの日本では、脳卒中(脳出血・くも膜下出血・脳梗塞)で最も患者数が多かったのは脳出血でした。理由としては、昔の日本は漬物や醤油など塩分が多い食事が中心だったこと、そして血圧を下げる降圧剤がまだなかったことが原因とされています。しかしその後、脳卒中治療には血圧管理が重要であること、そして降圧剤が普及したことにより脳出血患者は減少していきました。
なお、日本高血圧学会で発表されている高血圧治療ガイドライン2019に記載されている高血圧の基準は下記の通りです。
75歳以上の降圧目標:140/90mmHg未満
脳出血の治療法と適応
Ⅰ)内科的治療
まずは、出血が助長されないように、すぐに血圧を下げる「降圧剤」を投与します。また出血が起こると次第にその周囲の脳がむくんでくるため、その場合にはむくみをとる「抗浮腫剤」の投与をおこないます。出血量が少ない場合には保存加療による経過観察となるため、これらの薬を点滴で投与します。
Ⅱ)外科的治療
外科的治療が必要性を判断する際に重要なのは、「出血の部位」「意識レベル」「脳ヘルニアになりそうな状態がないか」です。脳ヘルニアになりそうな状態がある場合には血腫を取り除く手術をします。この手術は意識の改善などを目的としており、麻痺などを軽減させるためではありません。
※脳ヘルニアとは:脳は固い頭蓋骨によって守られているため、出血を起こしたり脳が浮腫むと、狭い頭蓋骨の中で正常な脳が圧迫されていきます。さらに、浮腫みが増し圧迫が進むと、脳の一部が正しい位置から押し出されていきます。この状態を脳ヘルニアといいます。このような状態が起きると、人間の意識などを司る脳幹の障害が不可逆的となり、「瞳孔異常」「意識障害」「呼吸器障害」が生じます。

1)開頭血種除去術
昔より採用されている術式で、頭を大きく開き、医学的に問題のない部位から吸引管を脳内に挿入し、血腫を吸引し除去します。そして出血点を見つけ、止血できたら、頭蓋骨を戻し、縫合します。
なお、脳の腫れが強い場合には頭蓋骨を外したままにし、腫れが引いた段階で戻す場合もあります。これを外減圧術(減圧開頭術)といいます。
2)内視鏡的血腫除去術
500円玉程度の穴を開け、そこにシースと呼ばれる透明な筒を挿入し術野を確保したのち、内視鏡と吸引管を挿入し血腫を除去します。従来の開頭血種除去術とは違い、開頭部位の大きさも小さく手術時間も短いため、患者様にとっては低侵襲といえます。
しかし、狭い術野で行う内視鏡では、術中の激しい出血がある場合などには出血点が見つけられず止血困難となる為、従来の開頭に切り替える場合もあります。そのため出血量や出血部位などを考慮し「開頭」か「内視鏡」か、安全な術式を選択する必要があります。


Ⅲ)外科的治療対象外
①意識清明かつ脳ヘルニアを示す所見がない場合は、手術による症状の軽減が見込めないため、内科的治療を継続しながら、経過観察となります。
②手術によって意識障害の改善が見込めない部位の出血は、手術適応外となります。
脳出血の予防法
Ⅰ)生活習慣の見直し
肥満を含めた生活習慣病の管理が最も重要です。高血圧には特に注意が必要であり、食事での対策の1つは「減塩」です。日本人になじみのある醤油や味噌等といった調味料にも多くの塩分が含まれていますので、使用量には気をつけましょう。また、果物や野菜に多く含まれる「カリウム」は塩分を排出する働きがありますので、積極的に取り入れましょう。
なお、当院外来では、食事の見直しについて管理栄養士による「栄養指導」を行っています。アドバイスが欲しいという方は、一度主治医に相談してみましょう。
改善すべき生活習慣項目

Ⅱ)薬物療法
降圧剤には、「血管を広げる薬」、「心臓の過剰な働きを抑える薬」、「余分な水分・塩分を排出する薬」など、様々な種類があるため、患者様一人一人の原因にあったお薬を服用することが大切です。また、血圧を下げる薬は一生飲み続けなければいけないという印象をお持ちの方も多いと思いますが、必ずしもそうとは限りません。肥満の改善や食生活の改善で内服の必要がなくなる場合もあります。しかし、降圧剤は「治療薬」でもあり、「予防薬」でもあるため、生活習慣改善と服薬で血圧が下がったからといって自己判断で中断はせず、必ず主治医の指示に従いましょう。